6月12日の世界の昔話
  
  
  イラスト myi
  
  
アトリの鐘
イタリアの昔話 → イタリアの国情報
 むかしむかし、イタリアのアトリという町のお話です。
    
   ある日、王さまの命令で、町の広場の塔(とう)に大きな鐘(かね)がつるされました。
   鐘からは、長いつなが下がっています。
  「どんな音がするのだろう?」
   町の人たちは塔をとりかこんで、胸をわくわくさせながら王さまが来るのを待ちました。

  やがて馬車(ばしゃ)でやって来た王さまが、集まった人々にこう言いました。
  「この鐘は、ただ時刻を知らせたり、音を聞くだけのものではない。『正しさの鐘』として、ここにつるしたのじゃ」
  「正しさの鐘?」
   人々は、不思議そうに王さまを見つめました。
  「そうじゃ『正しさの鐘』じゃ。
   お前たちのうちの誰でも、もし人にいじめられたり、つらいめにあわされたりしたら、ここへ来て鐘をならせばよい。
   鐘がなれば裁判官がすぐに来て、お前たちの言い分を聞いてくれる。
   そして何が正しいかを、決めてくれるであろう」
  「誰が鐘をならしても、よろしいのですか?」
  「誰がならしてもよい。
   子どもでもよいぞ。
   見よ、そのためにつなは、このように長くしてあるのじゃ」

  こうしてアトリの町では、その日から人につらいめにあわされた人や、争い事のある人は塔の下に来て、鐘をならすようになりました。
   そして王さまのおっしゃった通り鐘がなると裁判官がやって来て、誰が正しいか、何が真実(しんじつ)かを決めてくれるのです。
   鐘のおかげで町のみんなは、楽しく毎日を過ごせるようになりました。
   そして長い年月の間に大勢の人がつなを引っ張ったので、つなが切れて新しいつなが出来るまでブドウのつるがさげられることになりました。
  
   さて、アトリの町はずれに、一人の金持ちの男が住んでいました。

  この男は若い頃はウマに乗って悪者をたくさんやっつけた、いさましく正しい人でした。
   でも年を取るにしたがって、だんだんと意地悪のけちん坊になってしまったのです。
  
   ある日、金持ちは考えました。
  「もっと、お金をためる方法はないだろうか?
   ・・・そうだ。ウマにエサをやらなければいいんだ」
   こうしてむかしは一緒に活躍したウマなのに、エサをやるのをやめてしまったのです。
  
   やせほそったウマはヨロヨロしながら、

やっとアトリの町へたどりつきました。

そして広場の塔の下まで来ると、つなのかわりに下がっていたブドウのつるの葉をムシャムシャ食べ始めたのです。

 ♪ガラン、ガラン。
   ウマが食べるたびに、鐘がガランガランとなりました。
   町の人たちも裁判官も広場に飛んで来て、そのウマを見ました。
  「かわいそうに、こんなにやせている」
  「ウマは口がきけないから、鐘をならして、つらいことをうったえているのだ」
   すぐに飼い主だった金持ちが、広場に呼ばれました。

  裁判官は、金持ちに言いました。
  「このウマは、今までとてもあなたの役に立ってきたはず。
   あなたのためたお金の半分は、このウマの物ではありませんか?」
   金持ちの男の人はブドウの葉を食べているウマを見ているうちに、胸がいっぱいになりました。
   自分がどんなにひどい事をしたか、ようやくわかったのです。
   そしてそれからはウマを大切にして、いつまでも仲良く暮らしました。

アトリの鐘は、ウマにとっても『正しさの鐘』だったのです。
おしまい
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