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6月29日の世界の昔話
  
  
  
  白いウマ
  ハンガリーの昔話 → 国情報
 むかしむかし、あるところに、たいへん貧乏な人がすんでいました。
 もっているものといえば、たった一頭の白いウマだけです。
 毎日、そのウマを粉ひき小屋ではたらかせて、やっと、くらしをたてていました。
 白いウマは、くる日もくる日も、おもい臼(うす)をまわして、粉をひきつづけました。
 ウマはおとなしく、せっせとはたらきつづけましたが、そのうちに、しごとがいやになりました。
 それというのも、よその家ではたらいているウマは、みんな二頭でくみになって、臼をひいているのに、じぶんだけはいつも一人ではたらいているのです。
 ある目、白いウマは主人にききました。
  「ご主人さま。わけをおきかせください。よそのうちのウマは、みな二頭づれなのに、どうしてわたしにはなかまがいないのですか。わたしはもう、ヘトヘトにつかれてしまいました」
 すると、主人はこたえました。
  「そのわけはかんたんだ。わしが貧乏で、おまえのほかにはウマどころか、イヌ一ぴき、いや、ムシ一ぴきもっていないからなのだよ」
 すると、白いウマはいいました。
  「それでは、しばらくわたしにひまをくださいませんか。じぶんで仲間をみつけてまいります」
 こうして白いウマは、仲間をさがす旅にでました。
 なん日もかかって歩いていくと、キツネの穴がありました。
 白いウマは、いいことを思いつきました、
  (そうだ。この穴の入り口にねころんで、死んだふりをしてみよう)
 その穴には、母ギツネが三びきの子ギツネとすんでいました。
 いちばん小さい子ギツネが外へ出ようとしたら、なにか白いものが入り口をふさいでいます。
 子ギツネは、それを雪がふっているのだと思いこんで、母ギツネのところへしらせにいきました。
  「たいへんだよ、お母さん。外に出られなくなってしまったよ。大雪がふっているんだ」
  「大雪ですって! いまは夏じゃないの」
 母ギツネは、ビックリしました。
 そこで、まん中の子ギツネをよんでいいました。
  「おまえ、見にいってごらん。おまえはにいさんなんだから、どういうことなのか、よくしらべてくるんですよ」
 まん中の子ギツネが、見にいきました。
 弟のいうとおり、入り口は白い大きなものでふさがっていました。
 まん中の子ギツネは、母ギツネのところへかえっていいました。
  「お母さん、ほんとに出られないよ。やっぱり大雪がふっていた」
  「そんなことがありますか。夏だっていうのに!」
 母ギツネは、いちばん上の子ギツネにいいつけました。
  「こんどは、おまえがいっておいで。おまえはいちばん年上なんだし、弟たちより世の中をしっているんだから、まちがいのないようによくしらべてくるんですよ」
 いちばん上の子ギツネが見にいきました。
 けれどもこたえは、やっぱりおなじでした。
  「お母さん。やっぱり雪がふっているんだよ。白いものしか見えないもの」
  「ほんとうに、おまえたちはしょうがない。まっておいで。お母さんが見てくるから」
 母ギツネは、穴の入り口へいってみました。
 入り口はまっ白でしたが、その白くて大きなものが大雪ではなくて白いウマだということが、母ギツネにはすぐにわかりました。
 なんとかしてウマをどけなくては、じゃまでこまります。
 母ギツネは、子ギツネたちをよびました。
  「おまえたち、みんな出ておいで。さあ、てつだっておくれ」
 それから親子四ひきがかりで、力いっぱいおしたりひっぱったりしましたが、白いウマをどうしてもうごかすことができません。
 母ギツネはしばらくかんがえていましたが、いいことを思いつきました。
 そこで母ギツネは、オオカミ(→詳細)のところへでかけていきました。
  「オオカミさん、オオカミさん。すばらしいえものを手にいれましたよ。うちの穴までひっぱってきたんですけど、あんまり大きすぎて、中に入りませんの。どうでしょう。おたくの穴までいっしょにひっぱってきませんか。そうしてごちそうを、なかよく半分にわけましょう」
 オオカミは、思いがけないごちそうにありつけるときいて、たいそう喜びました。
 そして、そっと心の中でかんがえました。
  (おれの穴にはこびこんだら、もう、こっちのものだ。キツネになんかわけてやるものか)
 白いウマはあいかわらず死んだふりをして、たおれていました。
 大きな白いウマを見て、オオカミはすっかりかんがえこみました。
  「キツネさん。いったいどうやったら、こいつをわたしの穴まではこべるだろう?」
 母ギツネは、こたえました。
  「なんでもありませんわ。わたしはウマのしっぽとじぶんのしっぽをむすびあわせて、ひっぱってきたんですよ。そりゃ、らくなものでしたわ。こんどはあなたにひっぱっていただきましょう。しっぽをむすびますからね。わけなくはこべてしまいますよ」
  「そりゃ、うまいやりかただ。さあ、むすんでくれ」
 早くごちそうにありつきたくて、オオカミはウズウズしながらキツネにいいました。
 キツネは、オオカミのしっぽを白いウマのしっぽに、それはそれはきつくむすびあわせました。
  「さ、オオカミさん。ひっぱってごらんなさい」
 力いっぱい、オオカミはひっぱりました。
 でも、ウマはびくともしません。
 しっぽがちぎれそうになるほどひっぱりましたが、それでもうごきません。
 オオカミは、ありったけの力をこめてひっぱろうとしました。
 そのとき、白いウマはいきなりはねおきて、そしてものすごいいきおいで走りだしました。
 白いウマは、しっぽのさきにオオカミをひきずったまま、ただのひとやすみもせず、走って走って走りつづけて、貧乏な主人のところへかえりつきました。
  「ご主人さま、ごらんください。このとおり仲間をつれてまいりました」
 喜んだ主人は、すぐにオオカミを鉄砲でうちころしました。
 そしてオオカミの皮を売って、たくさんのお金をもうけました。
 そのお金で、もう一頭のウマを買いました。
   こうして白いウマは、もう、一人で重い臼をまわさなくてもよくなったのです。
おしまい