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6月28日の世界の昔話
  
  
  
  ビンの中のお化け
  イギリスの昔話 → 国情報
 むかしむかし、ある町に、どこか暗い感じのする古い大きな家がありました。
 その家には、人間はだれもすんでいません。
 でも、お化けが一人、すんでいたのです。
  「だれか、お化けを退治してくれる者はいないかね。お礼に、お金はうんとはずむんだが」
  と、家主は、家のまえにはり紙をしたり、たのんだりしました。
 けれど、どんな力じまんも、本当にお化けを見ると体の力がぬけて、青い顔をしてにげてしまうのです。
 さて、この町にトミーという、かしこくて勇気のある若者がすんでいました。
 家主はトミーのうわさを聞いて、たのみにいきました。
  「トミーさん、あなたのちえで、あの家のお化けをやっつけてください」
  「いいですとも」
 トミーは、あっさりとひきうけました。
 あまりにもあっさりとひきうけたので、家主は心配になりました。
  「本当に、だいじょうぶですか?」
  「ええ、そのかわり、お酒とコップとあきビンを用意してください」
 その晩トミーは、お酒をチビチビ飲みながら、お化けの出るのをまちました。
 家の中はまっ暗で、月あかりがほんの少しあるだけです。
 カーン、カーン。
 時計が、十二時をうちました。
 すると、どこからかヒューッと不気味な音がして、一つ目の口が耳までさけた、おそろしいお化けがあらわれたのです。
  「やあ、こんばんは」
  と、トミーはいいました。
 するとお化けは、
  「へんだな? たいていのやつはおれを見ると、あわててにげていってしまうのに」
  「へんなのはきみじゃないか。この家は、まどもとびらもぜんぶカギがかけてあるんだぜ。それなのにどこから入ったんだい?」
  「ウヒヒ、教えてやろうか?」
 お化けは、気味の悪い顔でわらいました。
  「うん。そしたらお酒を飲ませてやるよ」
 お化けは、たった一つの目でトミーを見ました、
  「ほんとうに、こわくないのかい?」
  「ちっとも」
  「本当かい? うれしいな。じつはおれは、カギあなから入ってきたんだよ」
  「カギ穴だって? まさか、いくらお化けだって、あんなに小さなところから入ってこられるわけないじゃないか」
 トミーがわらうと、お化けはくやしそうにいいました。
  「うそじゃない。本当だ!」
  「ぜったいだね?」
  「ぜったいだ!」
  「じゃあ、この小さいビンの中にも入れるかい?」
 トミーは、テーブルの上のあきビンをさしていいました。
  「入れるとも!」
  「本当かな? お化けはうそつきだっていうからな」
  「じゃあ、見ていろ!」
 するとお化けは、シュルシュルと小さくなると、ビンの中に入ってしまいました。
  「いまだ!」
 トミーは急いでビンのフタをしめると、遠くヘほうりなげてしまいました。
   それっきりこの家には、お化けは出なくなりました。
おしまい