
  福娘童話集 > きょうの世界昔話 > 1月の世界昔話 > オー・ツール王とガチョウ
1月2日の世界の昔話
  
  
  
  オー・ツール王とガチョウ
  アイルランドの昔話 
  → アイルランドの国情報
 むかしむかし、アイルランドに、オー・ツール王という、とてもりっぱな王さまがいました。
 若いころから狩(か)りをするのが大すきで、日がのぼると、すぐにウマにまたがって森にでかけていきました。
 ところがオー・ツール王も、年をとって一日じゅう、狩りをしていることができなくなりました。
 そして冬がくると、年とったからだのあちこちがいたくなり、つえがないと歩けなくなってしまいました。
 するとこの世の中が、とてもつまらないものに思われてきました。
 そこで王さまは、気分をかえるためにガチョウ(→詳細)を飼(か)うことにしました。
 オー・ツール王もガチョウも、しあわせにくらしました。
 ガチョウはそこらをとびまわっても、王さまがよべばすぐにもどってきます。
 オー・ツール王のあとから、ヨチヨチとついて歩くときもありました。
 金曜日になると湖の中を泳ぎまわって、よくふとったマスをくわえてきては、王さまにわたしました。
 ところがこのガチョウも、年をとってしまったため、つばさも足もよわってしまったのです。
 もう王さまは、ガチョウと遊ぶこともできなくなってしまいました。
 ある日王さまは、ガチョウをひざにのせて、湖のほとりにションボリと腰をおろしていました。
  「もう、この世の中には、なんのたのしみもない」
  と、思うと、いつのまにかなみだがほおをつたっていました。
 王さまはいつものようにガチョウを池にいれて、えさをとらせてやりましたが、そのあいだも、ガチョウがおぼれてしまうのではないかと、それはそれは心配でした。
 王さまは、そのときふと、目をあげました。
 すると、見たこともないりっぱな若者が、目の前にたっているのです。
  「オー・ツール王、バンザイ!」
  と、若者がいいました。
  「おや? どうしてわたしの名まえを知っているのかね?」
  「わたしは、なんでも知っていますよ。ところで、あなたのガチョウは元気ですか?」
  「ややっ! ガチョウのことも知ってるのかね?」
  と、王さまはビックリです。
 と、いうのも、ガチョウはいま、草のかげに入っていて、ここからは見えないのですから。
  「ええ、知っていますとも」
  「いったい、きみはだれなんだね?」
  「はい、正直な男です」
  と、若者がこたえました。
  「では、なんのしごとをしているんだね?」
  「はい、わたしのしごとは、古いものを新しくすることです。それでくらしております」
  「? ・・・ああ、いかけや(→ナベやカマを修理する人)さんか」
  「いいえ、もうちょっと大きなことをするんですよ。そうだ、あなたのガチョウをわかがえらせてあげましょうか?」
  「ほんとうに、できるのかね!」
  「ええ、できますとも。元気のいい、わかいガチョウにもどしてあげましょう」
 オー・ツール王は、口ぶえをふきました。
 すると、アシのかげからガチョウがヨチヨチとでてきて、足のわるい王さまのそばにきました。
  「そんなことができるとすれば、きみはアイルランドでいちばんかしこい人だ」
  「いやいや、実はね、もうちょっとえらいですよ」
  と、若者がいいました。
  「しかし、わたしがガチョウをわかがえらせたら、王さま、あなたはなにをくださいますか?」
  「なんでも、きみののぞむものをあげよう」
  「じゃ、こうしましょう。ガチョウがわかがえってからはじめてとびまわったとき、その下にある土地をぜんぶください」
  「ああ、いいとも」
  「あとで、いやといってはだめですよ」
  「もちろん、そんなことはいわない」
 若者は、やせこけて骨と皮ばかりになっているガチョウをよびました。
 それから、ガチョウの羽をしずかにつかんで、
  「かわいそうなガチョウさん。さあ、元気な鳥になりなさい」
  と、いって、鳥の羽をかるく口でふきました。
 ガチョウはしばらくのあいだ、若者の手にジッととまっていましたが、やがて空にまいあがり、ツバメのようにスイスイと飛び回ったのです。
  「おお、飛んだ! 飛んだ!」
 王さまは、うれしそうにさけびました。
 ガチョウはヒバリのように空高くまいあがったかと思うと、ずっと遠くヘとんでいきました。
 そしてあっというまにもどってきて、王さまの足もとにおりました。
 王さまは、ガチョウの背中をなでてやりながら、
  「おまえは、世界でいちばんいい子だよ」
  と、いって、頭をかるくたたきました。
  「さて王さま。あなたは、わたしになんとおっしゃいましたっけ?」
  「きみは、アイルランドでいちばんかしこい人だ。と、いいましたよ」
  と、王さまは、なおもガチョウを見ながらいいました。
  「それだけでしたか?」
  「死ぬまで、ご恩はわすれません」
  「おやっ? ガチョウがとんだとき、その下にある土地をわたしにみんなくださると、いいませんでしたか?」
  と、若者がいいました。
  「もちろん、あげるとも。わたしには、ほんのちょっとの土地しかのこらなくてもかまわないよ」
  と、いって、王さまはやっと、ガチョウから目をあげました。
  「よろしい。やはりあなたはりっぱなお方だ。それならガチョウは、ずっと元気でいるでしょう」
  と、若者がいいました。
  「あなたはいったい、だれですか?」
  と、王さまは聞きました。
  「はい。聖者ケビスです」
  「なっ、なんと!」
 王さまは、ひざまずいて聖者をおがみました。
  「ああ、神さま。わたしは聖者と話をし、聖者にガチョウをなおしてもらったのですか」
  「ええ、そうです」
  「ただの若者だと、思っていましたのに」
  「すがたをかえてきたのですから、むりもありません。わたしはオー・ツール王をためしにきたのです」
  と、聖者がいいました。
 聖者は、自分の土地がすくなくなっても、やくそくをちゃんとまもった王さまをほめたたえました。
   そして、王さまからもらった土地の半分を、王さまにかえしてあげたということです。
おしまい